登山知識及び技術向上コース(聖岳~赤石岳)山行報告
実施日 山名 参加者 会員 障害者 0名 健常者 7名
平成27年9月20日~23日 聖岳~赤石岳 合計 7名 会員外 障害者 0名 健常者 0名
コースタイム:
9/20 聖岳登山口(7:40)…吊り橋(9:10-9:20)…聖沢橋(14:20)…聖平小屋(15:00)
9/21 聖平小屋(4:25)…小聖岳(6:05-6:20)…聖岳(7:35-8:00)…兎岳(10:20-10:50)…
   中盛丸山(13:00-13:05)…百間洞山ノ家(14:00)
9/22 百間洞山ノ家(4:00)…百間平(5:15-5:25)…赤石岳(8:05-8:20)…富士見平(10:30-11:00)…
   赤石小屋(11:25-11:35)…椹島(15:30)-二軒小屋
天気:
9/20 晴れ夜雨
9/21 霧後晴れ後曇り
9/22 快晴

☆9月20日
 到着予定よりも早く、夜行バスで畑薙第一ダムに到着する。椹島ロッジまでの臨時送迎バスが出て、予定よりも1時間半ほど早く聖岳登山口に着くことができた。

 

 山から下りてきた頃はぼろぼろになっているかも知れないので、登山口で使用前の写真をパチリ。

 今日は、標高差1100mほどの登り。まずは急登から始まる。そして聖東尾根の左側をトラバースするようになる。所々細い道があり、慎重に通過する。

 

 聖沢吊橋は、有名なので大きな吊橋かと思ったが、意外に短く、低いところに付けられている。吊橋が苦手なCさんも、これなら問題ないとすいすい通過する。

 

 ここから乗越までが今日一番の急登。みんな頑張って登っていく。ペースも順調だ。乗越らしいところに着くがもう少し先だと思い、尾根の右側をトラバースしていくが、なかなか現れない。さっきの乗越らしいところが乗越だったようだ。

 

 次は滝見台があるはずだが、昭文社の地図も何年版かによって位置が違っている。私の持っているのは1998年版。一番古いが、ここと思われるところから、奥聖ノ滝沢にかかる連瀑がとてもよく見えた。

 

 続いて水場と思われる沢を横切る。木の根に躓いてCさんが転んだが、怪我などがなく息を整えてそのまま登っていく。子尾根を回り込んでいくと、滝がよく見える岩がある。そこで休んでいたパーティーは、ここが滝見台だという。確かに、他の昭文社の地図ではこの付近に滝見台と書かれている。しかし、連爆は見えず、何ともはてなだった。

 

 さらに尾根をトラバースし、ようやく聖沢橋に到着する。ここからは沢沿いの緩やかな斜面を登るようになる。登っていくと、多くのテントが張られたその先に聖平小屋が見えてきた。小屋に着く頃は、すっかり重い雲が垂れ込めていた。夜半には雨も降っていた。夜行バスでしっかり眠れなかった疲れもあり、早々に寝袋にくるまった。

 

☆9月21日

 今日の朝食と昼食は、弁当を頼んでいた。一つはおいなりさん3つ、もう一つは大きなおにぎり一つ。朝食はおいなりを食べて出発する。計画では5時出発予定だったが、少しでも早めに出たいと思い、4時25分出発。周囲は霧に包まれて視界は悪い。真っ暗な中、ヘッドランプを頼りに登りはじめる。

 

 薊畑への分岐付近から明るくなり始める。そして時折霧が切れるときもある。天気の回復を祈って登っていく。

 

 霧が切れ、雲の間から聖岳や後ろに上河内岳も見られるようになってきた。日の出前だが、周囲はすっかり明るい。尾根をトラバース気味に行くところで、樹林が切れて東の空がよく見えるところに出た。何とそこには、シルエットの富士山とその上空を飾るあかね雲が見られた。この世のものと思えないほどのすばらしい光景に出会えた。5分ほどの間、何枚も写真を撮っていたが、次第に色合いが変わってきた。自然が作り出した最高芸術。たった5分程度しか見ることができず、富士山が見えるところにいた人でなければ出会えなかった光景。私たちはこんな低いところから出会うことができて、非常に幸運だった。

 

 ダケカンバの林を登り、森林限界に出ると、はるかに広がる雲海とその上に浮かぶ上河内岳がすばらしい。小聖岳に着くと、聖岳が正面に見える。富士山もとてもよく見える。聖岳の左には兎岳も見えている。しかし、とても寒いので、雨具を着ることにする。

 

 聖岳に向かう尾根の左手は、遠山川の原頭部。岩の間から最初の1滴と思われる水がしみ出ていた。ジグザグの登山道を頑張って登っていく。振り返ると雲海の上に越えてきた小聖岳が低く見える。登っている聖岳の山頂方面は、真っ青な空の下、多くの登山者がジグザグに登っている。聖平小屋から750mほどの登りも、ようやく傾斜が緩くなり、聖岳の山頂に到着した。今まで見えなかった赤石岳方面がすっきりと見えるようになる。赤石岳のすぐ後ろには荒川三山が佇み、その左奥には塩見岳が頭だけ見せている。さらにその左奥には仙丈岳が見えている。北アルプスや中央アルプスもよく見える。富士山は雲海の上に、きれいに裾野を伸ばしている。

 

 今日の行程は聖岳に登っても、まだ3分の1程度。まだいくつもの山を越えていかなければならないので、先を急ぐ。

 急な下りが続く。左側の聖の大崩壊地に絶対に落ちてはいけない。岩場は特に慎重に行く。右手後ろには赤石岳がよく見えている。コルに着くと、タカネマツムシソウがまだ咲いていた。兎岳へは標高差200mの登り。紅葉した木々の中を登っていく。振り返ると聖岳がすばらしい。遠山川側からわき出たくもが稜線の風にあおられて山旗雲のようになっている。

 

 ようやく兎岳避難小屋への分岐に着き、さらに兎岳山頂へと登っていく。この頃には雲に包まれるようになっていた。山頂に着くと、20日の朝、東海フォレストのバスで隣に座っていた女性2人組が逆コースから登ってきた。昨日は赤石岳避難小屋に泊まったとのこと。

 

 兎岳山頂で昼食タイムとする。聖平小屋の大きなおにぎりには、おかかや梅干しなど、3種類の具が並んで入っていた。

 

 兎岳から150mほど下り、小兎岳へは手前の小ピークを越えて緩やかに登っていく。昨晩、聖平小屋で出会った男性グループと抜きつ抜かれつして歩く。声を聞くと新潟弁の人がいる。後で聞いたら三条の人だった。私が生まれた出雲崎の天領の里も知っていた。

 

 小兎岳を過ぎると紅葉のきれいなところを通過する。周囲が霧に包まれて視界が悪くなったおかげで、4羽のライチョウに出会うことができた。しばらく近くにいたが、離れていったので出発したら、雷鳥たちは私たちの少し下まで飛んできた。

 

 中盛丸山に到着すると、KさんからCさんと一緒に早めに行って、小屋の受付をして欲しいと頼まれる。危険なところはないと思われるので、大沢岳に登らず、トラバースルートを歩いて百間洞山ノ家に向かうことにする。トラバースルートの山腹や対岸の山腹も紅葉がなかなか美しい。聖岳もよく見え、荒川三山が見えるところもあった。

 

 小屋で受付に並んでいると、Kさんが最初に到着。H君は大沢岳を登って来たらしい。他の3人は、ゆっくりとトラバースを楽しんで最後に到着。8人入るのがやっとの場所に11人泊まることになっていたが、スタッフが8人に変更してくれた。狭いながらも何とか足を伸ばして寝ることができた。夕食前は、三条から来た人が所属するグループと交流して楽しむことができた。

 

☆9月22日

 今日は、赤石岳まで650mほどの登り、そして赤石岳から椹島まで2000mの下りとなる。体力よりも膝が持つかどうかが勝負となりそうだ。

 

 早朝の4時。空には満天の星空が広がる。天の川もよく見える。小屋からヘッドランプを付けて登りはじめる。途中で若いH君に先頭を歩いてもらう。暗い夜道を先頭で歩くことは、ルートファインディングの勉強になるだろうと思う。

 

 私は一番後ろで、時々ヘッドランプの明かりを消して星空を楽しむ。山の形も見えている。今日は全く月が出ていない。そのため、星たちのきらめきは一層すばらしい。

 

 ルートは次第に森林限界を越えるようになる。東の空がうっすら明るくなり、星たちの輝きが消えていく。代わりに東の空に明けの明星が輝くようになる。

 

 百間平を歩いていると、荒川三山や塩見岳、仙丈岳が見えるようになる。そして聖岳や荒川三山に朝日が当たるようになる。しかし、我々が歩いている登山道は、赤石岳の影になって日が当たらない。いくら歩いても体は温まらない。

 

 百間平から赤石岳につながる尾根を緩やかに登る。そして赤石岳をトラバースしながら斜上するガレ場の登山道を登るようになる。それでもまだ、日は当たらない。それでも急坂を登るので、だんだん暑くなってくる。そして、登り着いたコル状のところに出ると、まぶしく暖かい太陽がさんさんと輝いていた。お釜状になった山頂の反対側には赤石避難小屋が見える。さすがに暑くなったので、着ていた雨具を脱ぐ。

 

 赤石岳の山頂からは、富士山がよく見え、北の方には、手前の小赤石岳と荒川三山、その奥には塩見岳の山頂部や間ノ岳、農鳥岳が見え、さらにその奥に甲斐駒ヶ岳、仙丈岳が見えたいる。北岳は大きな間ノ岳の後ろに隠れて見えない。北アルプスや乗鞍岳、中央アルプス、御嶽山、恵那山も見え、昨日歩いてきた中盛丸山、兎岳、聖岳もよく見える。さらにその南部に連なる上河内岳、光岳も見えている。360度の展望を楽しむ。

 

 やや遅れ気味のため、山頂で写真を撮って、早めに下山にかかることにする。山頂から小赤石岳方面に下る。小ピークから赤石沢北沢の原頭部を下る。かなり急なため、滑らないように慎重に下る。富士見平にトラバースするところまでなかなか着かない。富士見平より少し低いところまで下り、そこから緩やかに登ることになる。北沢原頭部の紅葉はすばらしい。赤や黄色に色づいた木々が楽しませてくれる。

 

 富士見平へのトラバース道は、今回のコースで一番危険なところ。数年前、ここを全盲の人たちをサポートして通過したのだが、サポートした人たちの技量に今更ながら感服する。

 

 富士見平に着くと、すばらしい風景が広がっている。今下りてきた赤石岳は間近に迫り、右手には荒川三山が山頂部を雲に隠しながらもよく見えている。聖岳も見え、富士山もよく見えている。また、この周辺の紅葉はすばらしい。ナナカマドが真っ赤に色づいている。この3日間で色合いを深めたのかも知れない。

 

 早い昼食を摂り、下山にかかる。予定より1時間近く遅れているため、今晩泊まる予定の二軒小屋はあきらめて、椹島ロッジに泊まることにした。

 

 赤石小屋に10半頃到着。ここからさらに長い下りが始まる。今まで遅れていたNさんが、急に元気になってぐんぐん下って行く。少し間が空いたが、後ろもしっかりと付いていく。途中で静岡県警の人たちと行き違った。北沢原頭で怪我をした人が出て救助要請があったので、向かっているとのこと。上空にはヘリの音もしていた。

 

 ぐんぐん下ってようやく大井川の林道が見えてきた。しかし、見えてからも長かった。椹島に15時30分に到着。二軒小屋に行く送迎バスの時間に間に合った。バスは、乗るのが私たちだけだったので、予定よりも早く出発してくれた。

 

 二軒小屋に着たのは37年前。そのときは転付峠を越えてきた。テントに泊まり、千枚岳に登り、荒川小屋でテント泊し、最後に赤石岳を往復し、小渋川を渡渉して下山した。今回は二軒小屋に泊まるが、当時の二軒小屋周辺の様子は全く覚えていない。

 

 二軒小屋は、きれいなロッジだった。シェフの料理もすばらしく、小屋の中の雰囲気が俣すばらしい。風呂に入って3日間の汚れを落とし、さっぱりする。疲れた体では夜更かしすることもできず、早々に床についた。

 

☆9月23日

 早朝、小屋の周りを散歩し、転付峠への登り口を確認する。何も覚えていないが、やはりなつかしい思い出がよみがえる。登山を始めて2年目の冬に荒川三山と赤石岳の登頂を目指しての下見だった。10月10日前後、山頂付近の紅葉がすばらしかったことを覚えている。

 

 大井川にかかる滝を見物し、オヒョウの大木も見に行ってきた。東海フォレストのバスに乗車して1時間以上揺られて畑薙第一ダムに着く。待合所でお昼を食べ、毎日あるぺん号のバスに乗る。ここからさらに2時間、バスはひたすら山中を走る。南アルプスの山深さを強く実感するひとときだった。高速バスは予定よりも早く新宿に着いた。

 

 次回、南アルプスに行くときは、どんなコースを使うだろうか? 安全最優先で、楽しんでもらえるルートを考えたい。

 

                                                                 記:網干

 

《参加者の感想》

 聖岳、赤石岳は憧れの山のひとつ。そこへ行けるチャンス到来。この日が来るまで、折れない心を少しずつ、いろんな人の力や言葉を借りていってこれました。晴天に恵まれたこと、力強いリーダーに恵まれたこと、一緒に歩いてくれる仲間に恵まれたことに感謝してます。

 この登山で単独でテントで光岳~聖岳、赤石岳、これから荒川三山へいくという、彼女の目はきらきらしてました。ひとりで歩いている女性に軽量化に頭を凝らしたわたしが追いつき、話をすることができました。わたしが仲間ときたことを告げると彼女は羨ましい、この山に一緒にいってくれる友はいなかった。だからひとりできたといってました。山での一期一会。素晴らしい出会いでした。

 夜ベッドランプをつけながら歩くのはなにかずっとトンネルのようでしたが、山の朝は早い。あっという間にやってくる。日本の最高峰、富士山お目見え。赤々と凛と聳え立っている。富士山が近い。力強く感じて、しがないわたしに力を与えてくれる。森林の中にはきのこが季節を思わせる。いろとりどりのきのこがニョキニョキ、ひよこっと現れている。生きてるんだね、君たちも。

 噂の吊り橋もなんとまあ、人の知恵というものは素晴らしい。おかげさまで先に進むことができる。山小屋のスタッフの方達はみな若い。山男、山女が山でのお仕事を楽しんでいる。わたしももう少し若かったら・・・

 その山その山に思い出がまた増えた。厳しい山道もあったが、次から次へと景色を変えていく様にわたしは夢中になって歩いていた気がします。うまく言葉に伝えられません。山に酔ってる、そんな感じです。

 下山してすぐに電話したのは母。健康に育ててくれてありがとう。敬老の日になにもしてあげられなくて、ごめんねといったら、言葉だけで充分ありがとうといわれてしまった。それを伝えたかった。

 霜がおりている木々をみて、もうあとひとつきもしたら、雪が降り、人を寄せない厳しい冬がくるのでしょう。

 

                                                              記:S.Kさん