個人山行(涸沢岳)報告
実施日 山名 参加者 会員 障害者 1名 健常者 2名
平成29年4月29日~5月1日 涸沢岳 合計 3名 会員外 障害者 0名 健常者 0名

コースタイム:
4/29 上高地(6:20)…横尾(9:10-9:35)…涸沢(13:30)
4/30 涸沢(7:00)…白出のコル(9:45-10:10)…(奥穂方面)…白出のコル(11:55-12:25)…
   涸沢岳(122:45-12:55)…白出のコル(13:25-13:40)…涸沢(14:30)
5/1 涸沢(6:30)…横尾(8:30-8:40)…小梨平(11:15)

天気:
4/29 曇りのち雪
4/30 快晴のち曇り
5/1 雨

★4月29日

 さわやか信州号で、上高地に5時20分頃到着。店の開くのを待って3人で、朝定食を注文する。腹ごしらえの後は、登山者カードを提出して出発する。今回は弱視のKさんと20代のHさんと私の3人だけ。人数が少ないのは寂しいが、少人数だとスピーディーに行動できるメリットもある。快適なペースで林道を歩く。

 

 今日は曇り空で奥穂山頂は見えないが、時折日も差す時間がある。ゴジュウカラのフィフィフィというさえずりが、こだましている。コマドリやミソサザイの歌声も楽しめる。徳沢に着くと、アオジが姿を見せてくれる。黄色いおなかがきれいだ。徳沢のテント場は、まだ多くが雪原になっている。それでも雪のないところにテントが何張りか張られている。

 

 梓川の畔は、ケショウヤナギの赤い小枝が美しい。小枝の繊細な紅色から「化粧柳」と呼ばれるようになったらしい。北海道の日高と上高地にしかない貴重な植物だ。

 

 横尾で水を満たして、横尾大橋を渡って登山道に入る。昔、雨を避けて一晩過ごした横尾岩小屋は、今は岩が落ちて岩小屋跡になっている。その対岸には、若い頃楽しませてもらった屏風岩が聳える。

 

 残雪の道を行くが時折、夏道が出ているところもある。今年の積雪は、平年並みと聞いている。本谷橋のあるところからは雪渓歩きとなる。ここから上は土の道を歩くことはなくなる。横尾本谷を埋めるデブリは、底雪崩の恐ろしさを見せつけてくれる。デブリの上を歩いて涸沢へと入っていく。正面には前穂高岳と北尾根が見えてくる。涸沢への道のりはまだまだ長い。

 

 涸沢の谷が南西側に折れ曲がり、涸沢ヒュッテに向けて登っていると雪がちらちら降り出した。この雪はしばらく降り続き10センチほどの新雪が積もっただろうか?

 

 涸沢ヒュッテの夜は、談話室でツアーの人たちとの一期一会を楽しむ。そして明日の好天を期待して、早々に眠りにつく。

 

★4月30日

 3時半頃、外に出てみると星が瞬いている。すばらしい天気になりそうだ。

 

 4時半には起床し、山々がモルゲンロートに染まることを期待して外に出る。すでに多くの人たちが出てきて、日の出を待っていた。5時過ぎに日が昇ったようで、奥穂高などがわずかに色づいてきた。今日の色づきはあまり良くないようだ。それでも、きれいな光景を楽しんでから小屋に戻って朝食を摂る。

 

 アイゼンとハーネスを付け、出発準備が整ったところで、Kさんがトイレに行きたくなったというので、その待ち時間を利用して、涸沢小屋方面に行ってみる。北穂沢を少し登って、北尾根の写真を撮る。戻ると、すでにHさんが私のザックを運んでくれている。申し訳ないことをしてしまった。

 

 トレースはしっかりと付いている。そのトレースに沿ってひたすら登る。Kさんは、しっかり見えていないためにトレースを外れることがある。Hさんが後ろで適切にサポートしてくれる。それでもトレースを外れると疲れる。登るにつれてKさんは疲労の色が濃くなってきたようだ。それでもがんばって登る。

 

 とにかく雪の山々は美しい。写真を撮りながら登っていく。登る人たちの様子も絵になる。空は真っ青で、真上は藍色のような青さだ。

 

 涸沢岳の下をトラバース気味に登り、ザイテングラートを越えて小豆沢に入る。傾斜も次第に増してくる。しかし、確実に高度を稼ぎ、屏風の頭と同じくらいの方向になり、常念岳も同じ高さになってくる。もう白出のコルは近い。

 

 コルでは、穂高岳山荘の人たちが、除雪をしていた。舞い上がった細かい雪は、降雪のように落ちてきて頬をぬらす。風もあるので、寒く感じる。小屋の近くにザックを置き、ロープで結び合って、まずは奥穂高岳を目指す。

 

 最初の難関となる雪とミックスの岩場を慎重に登る。鎖やはしごを支点にしてセルフ確保を行い、KさんとHさんを確保する。3回ほどそれを繰り返し、雪壁の箇所まで来る。ここで少し登ってみるが、氷のように堅く締まった雪壁は、確実なアイゼンとピッケルワークが必要で、そこまでの練習をしていないので、今回はここであきらめることにして引き返す。

 

 下りは、もちろん登り以上に慎重に下る。大声を出すが、風に吹き消されてほとんど声は届かない。ザイルの残りの長さなどを伝えようとするが、本番での岩登り等をしていないため、こちらのジェスチャーの意味も通じない。それでも、順調にコルまで下りてきた。

 

 コルで昼食を摂り、今度は涸沢岳を目指す。涸沢岳の登りは、夏道通りにトレースがついている。コルから20分ほどで登頂する。山頂からは、槍ヶ岳と北穂高岳がよく見え、槍ヶ岳の左手には、遠くの立山から薬師岳、黒部五郎岳と続き、手前には双六岳などがよく見える。笠ヶ岳ももちろんよく見え、敗退した奥穂高岳もよく見えている。その右手にはロバの耳とジャンダルム、一段低いところに西穂高岳が見える。北穂高岳も見えている。常念岳、蝶ヶ岳はもちろん、槍ヶ岳の右奥には、針ノ木岳や鹿島槍も見えている。

 

 すばらしい展望を楽しんだ後は下山にかかる。白出のコルからはアイゼンを外し、シリセードを多用して下る。最初は滑りにくかったが、途中からは快適に滑るようになる。しかし、ザイテングラートを越えてところでは、新しい雪崩が発生してトレースを隠している。まだなだれたばかりだと思って、周囲を見渡すと北穂沢にも大きな雪崩の後がある。トレースは完全に消えている。事故があったのではないかと心配になる。そう思っていると、北穂の南陵側から雪崩が発生した。さらにガガーンという音がしたので、そちらを見ると、垂直に近い岩場を雪がなだれ落ちている。昨日積もった新雪が、気温が上がって雪が緩んだ昼頃からあちこちで雪崩が発生しているようだ。

 

 私たちが下っているところも雪崩の危険がゼロではないが、ほぼ大丈夫なところ。シリセードで飛ばして、コルから
50分ほどで涸沢ヒュッテに到着した。早い行動はそのまま安全につながる。

 

 今日、涸沢ヒュッテから下山した人が多く、ヒュッテは空いていた。談話室では、数年ぶりに再会した方がいた。年齢は82歳になったそうだが、明日は北穂に登る予定とのこと。82歳とは思えない元気さに脱帽です。

 

★5月1日

 昨日の夕方から曇っていた空は、朝から小雪が舞い始めていた。しかし、まだ降ったり止んだりのようだ。

 

 下りは早い。涸沢ヒュッテから2時間で横尾到着。林道も順調に歩いて、小梨平に11時15分頃到着。雨は明神を過ぎる頃から振り出し、小梨平では本降りになっていた。小梨平の日帰り浴場で汗を流してさっぱりする。

 

 上高地からは計画より一つ速いバスに乗り、松本に向かう。松本電鉄の車内は、造花が飾られとてもきれいだった。奥穂は登れなかったが、涸沢岳に登ることができ、全員無事に帰ってくることができた。ホッとした気持ちで、スーパーあずさに乗り込み、新宿へと向かった。

 

                                                                 記:網干