視覚障がい者のサポート方法

 内容は、視覚障害者をサポートする方法と、視覚障害者が登山道を歩く場合の方法や注意点に分けてまとめています。ただし、視覚障害者向けのものは、まだ工事中ですので、もうしばらくお待ちください。

 視覚障害者の方をサポートして登山をする場合の、心がけや実際のサポート方法を記載しました。ここに書かれたものが、絶対ではありませんので、あくまでも参考としていただき、より良い方法を実際のサポートの中から見つけていってください。

Ⅰ. 心がけ

  • ボランティア精神は大切ですが、さらに一歩進んで、普通の人間関係を築きましょう。そのためには、お互いに遠慮せず思ったことを言い、相手の言うことに耳を傾けることです。何かをしてあげるという気持ちではなく、あくまでも目の代わりをするだけで、あとは普通の人間関係を大切にしましょう。自分自身も、しっかりと山や自然を楽しんでください。それが長く続くことになり、よりよい人間関係を築くことに繋がります。
  • 理論より、まず行動を起こしてください。サポートができなくてもかまいません。まずは、一緒に山を歩いてみて、言葉のコミュニケーションを図ってください。そして、人のサポート方法を見て、自分自身の山歩きにも余裕が出てきたら、サポートを経験してみましょう。そのときは、登山経験豊富な視覚障害者と組み、サポート経験者に近くにいてもらいましょう。
  • 自分のペースでなく、相手のペース、参加者の中で最も体力のない人のペースで歩きましょう。視覚障害者のペースよりも速く歩くと、ザックにつけた紐を引かれることになり、お互いに疲れます。視覚障害者の人が、自分の足で登り、ザックの紐を引かなくても良いように、ペースを合わせて歩きましょう。また、パーティーの中で最も体力のない人は、視覚障害者とは限りません。最も体力のない人が、みんなの足を引っ張っているという気持ちを持たなくても良いように、特にパーティーの先頭に立つ人は、ゆっくり歩きましょう。
  • 以下に書いてあるサポート方法は、あくまでも原則です。臨機応変に最善の方法を見つける努力をすると共に、視覚障害者と話し合って、お互いにやりやすい方法を見つけましょう。人によって状況はみんな変わりますので、お互いに話し合い、お互いに相手を思いやる気持ちが大切です。
  • 健常者は、一人で登山をする時、楽な歩行を優先しがちです。しかし、サポートをする時は、安全を優先しましょう。また、説明しやすい行動を取ることも必要です。例えば、下半身だけの曖昧な行動をしないとか、方向を変える時は、止まって向きを変えるなどを心がけると良いと思います。サポーターと視覚障害者の呼吸がぴったり合って、一体感を感じられるようになると、一人で歩いている時には決して味わうことのできない喜びと充実感があり、楽しい山歩きになります。

Ⅱ. 平地でのサポート

  • 一般の道路などは、視覚障害者から半歩程度前を歩き、視覚障害者に右肘から腕をつかんで歩いてもらうことが基本です。
  • 階段などは、登りはじめや下りはじめで、一歩立ち止まって階段が始まること(登り階段か下り階段かも伝えた方が良いでしょう)を伝えましょう。踊り場でも、踊り場であること、階段がまた始まることを伝えましょう。
  • 電車の乗り降りは、ホームと電車の隙間に注意して、隙間の幅を白杖などで確認してもらいましょう。
  • 小さな段差も、晴眼者は何の気なしに通り過ぎてしまいますが、躓いてしまう可能性のある段差は、言葉で伝えましょう。

Ⅲ. 登山道でのサポート(登り)

  • ザックへのサポート紐の結び方
     サポート紐の結び方は、ザックの形や視覚障害者の好みによっても変わります。基本的には、紐を上下左右に繋ぎ、ゆるみをできるだけ少なくすると共に、ある程度余裕を持たせた紐をつなぐと、いろんなニーズの方に対応できます。
  • 視覚障害者一人に対し晴眼者二人が基本
     サポートは、視覚障害者1人に対し晴眼者2人が基本。ザックにサポート紐をつけた晴眼者が前を歩き、視覚障害者がサポート紐を持ち、その後に晴眼者が付いて、足場の指示などをします。
  • 前を歩くサポーターは振り向かないことが基本
     前を歩くサポーターは、振り向かないのが基本です。振り向くと、ザックが大きく左右どちらかに移動するため、視覚障害者は曲がり角に来たり、何かを避けたのかと勘違いしてしまいます。分かりにくい足場などがあったら、後の人が伝えましょう。
  • 段差を伝える
     登山道には、土や岩、木の根など、多くの段差があります。視覚障害者は、前を行くサポーターのザックの動きで、ある程度、段差の大きさを感じます。しかし、曖昧な状態で歩くより、はっきり分かった方が良いので、何十センチの段差というように、できるだけ具体的に伝えましょう。ですが、何十センチかなと考えているうちに、後の視覚障害者が段差にかかっても意味がないので、「大きな段差」とか「小さな段差」というように、曖昧な表現でも伝えないよりは良いので、状況に応じて伝えることを優先しましょう。ただ、あまり細かいものを伝えすぎるのも、聞く側としては、煩わしいものです。どの程度がより良いのかは、相手にもよって違ってきますので、経験を積んで、少しずつ覚えていきましょう。足の置き場についても同様、細かく伝えすぎると、聞いている側は疲れてしまいます。
     また、段差の前後では一呼吸置きましょう。大きな段差で視覚障害者が手間取っていたら、指示や手助けも必要ですが、段差を越えて歩く準備ができるまで待ってから歩き始めましょう。
  • 溝に注意
     晴眼者は、何でもなく跨いでしまう溝であっても、それが見えない視覚障害者は溝に落ちたり、蹴躓いたりしてしまいます。溝の幅を伝えられればベストですが、最低限、溝があることを伝え、杖で確認してもらいましょう。
  • 片側が崖などで切れている場合は、そのことを伝えましょう
     トラバース(斜面の横切り)などで谷側が切れている場合などは、そのことを伝え、視覚障害者の後のサポーターも足下を良く注意して見守りましょう。足を踏み外してしまった時は、すぐに体を支えましょう。また、切れている場所が終わったら、安全になったことを伝えましょう。緊張したままでは、すぐに疲れてしまいます。
  • 木の枝や岩の出っ張りに注意
     足下ばかり注意していると、木の枝に頭をぶつけたりします。また、自分よりも背の高い人をサポートしていると、自分が当たることのなかった木の枝に、視覚障害者がぶつかることがあります。よく注意して、木の枝があることを告げ、場合によっては腰を落として通過してもらいましょう。
  • 内輪差?に注意
     左右に曲がる時、後ろを歩く視覚障害者は、どうしても近道をして、内側を歩く場合が多いです。サポーターが回り込んだ木に、視覚障害者がガツンとぶつかってしまうこともありますので、注意して歩きましょう。道幅が狭い時には、視覚障害者に木に触れてもらったり、掴まってもらうことも必要です。
  • 倒木などの通過
     地面に倒れたような倒木であれば、「倒木があるので跨いでください」と伝えるだけで大丈夫ですが、地上から1m程度のところに横倒しになった倒木は、くぐるか跨ぐ必要があります。倒木に触れてもらって、どちらかを選択してもらって通過しましょう。
  • 大きな岩が累々したところは視覚障害者にとって最も危険な場所
     大きな岩が累々と積み重なったゴーロ帯は、視覚障害者にとっては、最も歩きにくい場所です。このようなところは、登山経験の豊富な視覚障害者でも、極めて危険が多く、サポート経験の少ない人は、踏み込んではいけません。経験豊富なサポーターと、経験豊富な視覚障害者が、共に慎重の上にも慎重に、一歩一歩を確かめながら通過することになります。
  • 岩場は一人で登ってもらうことも考えましょう
     岩場は、足だけで登るとバランスが悪い場合が多々あります。このような岩場は、サポート紐から手を離してもらって、両手両足を使って、自分一人で登ってもらうとよいでしょう。その場合、前後の人が手足の動きをよく見て、指示することが必要です。鎖場なども、一人で登ってもらった方がよい場合が多いようです。ただ、落ちる危険性が高い場合は、ロープを使って確保して登ってもらうことも必要になります。
  • 丸木橋は慎重に
     丸木橋は、足の置き場が分かりにくく、慣れないと捻挫をしたり、体を振られてしまいます。一歩一歩足の置き場を確かめてもらって、通過しましょう。
  • 沢を渡る時の注意
     沢を渡る時は、濡れたくないので、健常者は飛び石づたいに行きますが、視覚障害者にとっては、沢に入ってしまった方が安全です。しかし、濡れたくない気持ちもありますので、大きい石があったり、滑る危険が少ない時は、足の置き場を指示して慎重に通過しましょう。
  • もしもの時のためにロープを準備
     ずり落ちやすい急な斜面や、岩場などでは、ロープによる確保が有効ですので、リーダーの方はそのようなコースが予想される時は、パーティーに1本20m程度のロープを持参しましょう。
  • サポートはこまめに代わりましょう
     長時間サポートすると、ベテランのサポーターでも疲れるものです。できるだけ休憩の都度交替し、初心者の方は、危険なところが出てきたら、経験豊富なサポーターに代わってもらいましょう。

Ⅳ.登山道でのサポート(下りに固有な注意点)

  • 下りは登りよりも難しい
     視覚障害者の人にとって、下りは登りよりも遙かに難しいものです。特に、弱視の人は、登りは単独で登ることができても、下りはサポートを必要とする場合が多くあります。下りは、できるだけがっちりした男性がサポートするとよいでしょう。また、時間もかかりますので、コースタイムも余計にみておく必要があります。
  • 怖がって腰を引くほど滑りやすい
     下りを怖がって、腰を引く視覚障害者も多くいますが、これは却って重心が後ろに行ってしまい滑りやすくなります。体を真っ直ぐ楽な姿勢に保ち、そのまますっと下りた方が安全であることを視覚障害者に伝えましょう。視覚障害者の方も、この要領をマスターするよう、努力しましょう。
  • 段差の前で一呼吸置く
     登りでも必要なことですが、下りは特に注意が必要です。止まらずに下りると、視覚障害者は付いてこられず、サポーターに体重を預けてしまうことになり、非常に危険です。必ず、一呼吸置いて、視覚障害者に段差の程度を伝え、ゆっくりと下りましょう。
  • 急な段差や岩場などでは一人で下ってもらうことも必要
     登りと同様に、岩場では、両手両足を使って下ってもらうことも必要です。サポーターは先に下りて、足場などの指示を行います。このような岩場のあるコースは、視覚障害者もサポーターも経験が浅い時は、極力避けるようにしてください。
  • 下りの時は、ザックの上側に掴まってもらう
     下りは、視覚障害者よりもサポーターが下になります。そのため、ザックの紐を掴む位置は、登りよりもかなり上になります。お互いに相談しあい、最もよい位置を持ってもらうようにしましょう。

Ⅴ.弱視者をサポートする場合の注意点

  • 弱視者は、人によって見え方が違います。ほとんど自分一人で歩ける人もいれば、下りだけサポートが必要な人や、登りも下りもサポートが必要な人もいます。相手に、どのようなサポートをしたらよいのか良く聞いて、サポートをしましょう。基本的には、1対1のサポートで大丈夫ですが、危険な箇所などはできるだけ後に付きましょう。
  • 弱視者は、自分で見えていると思っても、細かなところが見えていない場合があります。例えば、尖った岩もただ平板な岩としか見えない場合があります。そのような岩に足を乗せると、足を取られて捻挫したり、転倒や転落する危険性がありますので、十分に注意してください。
  • 樹林帯の木漏れ日は、健常者には心地よい癒しとなりますが、弱視者にとっては、コントラストが強すぎて非常に見づらい状況となります。このようなところでも、十分に注意しましょう。