★8月9日
夜行バスで折立に着く。あまり眠れないが、いつものことなので、特に問題はない。朝食を食べて出発する。
最初は、いつもながら、樹林帯の急登となる。展望が良くなる三角点展望台までは、忍の一字だ。それでも、どんどん高度を稼ぐので、後の鉢伏山などが見えるようになる。
三角点展望台に着くと、薬師岳や剣岳、室堂に続く弥陀ヶ原などが見えるようになる。ここで休憩してさらに登っていく。
展望が良くなり、振り返ると有峰湖が俯瞰できる。緩やかな傾斜の斜面には、一面にキンコウカが咲く。これほどのキンコウカの群落は他にないのではないだろうか?
緩やかな登りだが、NさんとIさんが遅れている。Nさんが足をつり、休憩していたようだ。合流してからは順調に歩く。五光岩ベンチで休憩していると、プロガイドのKさんが登ってきた。昨年、二子山でも会ったが、Nさんは久しぶりの再会のようだ。
五光岩ベンチからは、薬師岳を左手に見て、緩やかに登っていく。綿毛になったチングルマが多く、ニッコウキスゲも咲いている。もう昼過ぎに太郎平小屋に到着する。太郎平小屋では、外のベンチで飲んでいると、歌の好きな他のパーティーと合流して一緒に歌う。夜はぐっすり眠れた。
★8月10日
3時頃外に出ると、満天の星が広がっていた。流れ星も見えた。
5時に朝食を食べ、6時前に太郎平小屋を出発。後の薬師岳が大きく、雲ノ平方面がよく見える。足下には、朝露に輝くチングルマの綿毛が無数にある。他の登山者に教えると「詩の世界ですね」と言って、写真を撮っていった。
チングルマだけでなく、光る朝露を背景にすると、クマザサやミヤマアキノキリンソウもとても映える。歩くスピードは父として上がらない。他のメンバーは、先に行って待っていてくれる。
北ノ俣岳まではとてもたおやかな広い尾根が続く。槍ヶ岳も見えるようになってきた。手前にはお花畑も広がる。まさに稜線漫歩の世界だ。ただ展望と高山植物に酔いしれながら歩けば良い。下界のいろんなことも忘れさせてくれるすばらしい世界だ。
北ノ俣岳に着くと、笠ヶ岳や乗鞍岳、御嶽山が並んで見えるようになる。広い山頂でゆっくりする。
北ノ俣岳からは、赤木岳を越え、以前山仲間アルプでも登った赤木沢の源頭部に着く。あの時は、赤木沢を遡行した後に、今歩いてきた所を歩いて太郎平小屋に戻ったのだ。まだまだ体力があった頃だ。
ここから黒部五郎岳への登りが始まる。手前に山があるが、これはニセ黒部五郎と呼ばれているらしい。そこに上がると、黒部五郎岳がかなり向こうに聳えている。ゆっくり歩いて行こう。
2回ほど傾斜の緩いところを過ぎると最後の登りにかかる。傾斜が次第にきつくなる。それでも、順調に登っていく。登り着いたところが、黒部五郎の肩だ。ここからあと少しの登りで、山頂だ。山頂でお昼を食べようと思い、ザックを担いで登っていく。
黒部五郎岳や三俣蓮華岳は、40年前に登ったことがある。あの時は、剣岳から槍ヶ岳への縦走の途中だったが、3日目の黒部五郎小屋までずっと雨で景色は何も見えなかった。今回は、好天に恵まれた最高だ。ただ、槍穂高連峰はすでに夏雲に包まれて、稜線は見えなかった。それでも、山頂で展望を楽しみながらゆっくり昼食を摂れた。
肩まで戻り、カールコースを行く。カールを下っていると、久しぶりにクジャクチョウを見つけた。ミヤマカラマツやミヤマダイモンジソウなども咲いている。カールの底に着くと、雪解け水が流れる沢があった。ここで冷たい水を飲む。身体を冷やしてくれて、とてもうれしい。
カールから黒部五郎の小屋までは、樹林帯もあって意外に時間がかかる。私は、先について、宿泊手続きをする。おいしくリンゴを食べている人を見たら、とても食べたくなり、リンゴを買って食べた。
NさんとIさんも少し遅れて到着した。意外に長かったので、かなり疲れた様子だった。
ここの小屋でも、他のパーティーと歌で交流を図って、ぐっすりと眠りについた。
★8月11日
黒部五郎の小屋は、4時30分から朝食が始まる。30分前に並んで、最初のグループで朝食を摂れた。それほどの混みようではないので、2回戦で終わるようだ。
黒部五郎小屋からは、樹林帯の登りが始まる。振り返ると、黒部五郎岳に朝日が当たっていた。樹林帯を抜けると、笠ヶ岳がよく見えるようになる。
ここでも、チングルマなどの水滴が美しい。葉の先端に付いた水滴の写真を接写で撮る。コバイケイソウもきれいに咲いていた。
昨日、一緒に歌った男性3人パーティーが追い越していく。黒部側のトラバース道では、ミヤマダイモンジソウが美しい。3人パーティーとは黒部乗越で別れる。彼らは雲ノ平まで行くらしい。
最後の登りをがんばると三俣蓮華岳の山頂だ。ここからは、槍穂高連峰が指呼の間に見える。登ってきた黒部五郎岳や以前登った薬師岳、祖父岳などもよく見える。富山、長野、岐阜の県境。さすがに展望が良い。ただ、標高はあまり高くなく、隣の丸山や双六岳の方が高い。
山頂から一旦下り、丸山の登る。外国人の人たちが大きな声で話しながら下ってきた。丸山に登ると、双六岳が指呼の間だ。その左手には笠ヶ岳もよく見えている。
槍ヶ岳をみだりに見ながら、気持ちの良い稜線を歩く。少し登ると双六岳に着く。双六岳は三俣蓮華岳以上に槍穂高連峰が近く、最高の展望台だ。手前に双六岳の広い尾根も広がる。
双六岳から広い尾根ルートを歩く。槍ヶ岳がどんどん近づいてくる。とにかく歩きやすく気持ちの良い尾根が続く。
私はトイレに行きたくなったので、みんなより少し早く双六小屋に着いた。この小屋は、カレーライスが名物らしい。しかし、Nさんはうどんを注文した。うどんはゆでなければならないので、一番時間がかかると言われたらしい。
双六小屋の横にはテント場があり、その先には双六の池がある。その向こうには、笠ヶ岳方面が見える。すでに空には夏雲がもくもくと成長していた。
ここからは、弓折乗越に向けての緩い登りとなる。トリカブトがきれいに咲いている。
尾根に上がると槍ヶ岳が見えた。しかし、その後すぐに雲に隠れるようになってきた。少し歩くと、今晩の宿となる鏡平山荘が下に見えた。
きれいに咲いたクルマユリや花見平と呼ばれるお花畑を楽しみながら歩いて行くと、弓折乗越に到着する。ここから鏡平に下っていく。
この下りでは、双六小屋でキャンプする多くの人たちとすれ違った。鏡平にはテント場がないので、テント泊の人は双六小屋まで行かなければならない。みんな苦しそうに登っていた。
鏡平山荘に着く頃には、すでに槍ヶ岳は雲の中で全く見えなくなっていた。今日も、これまでの小屋で歌を聞いていたという女性グループと一緒にビールで乾杯して歌を歌う。
★8月12日
いよいよ、今日は下山の日だ。朝起きると、小屋の前に槍ヶ岳が見えている。4時30分からの朝食を摂った後、すぐに鏡池に行く。以前、笠ヶ岳を目指して登った時に鏡平山荘に泊まったが、このときは大雨になり、池からは何も見えなかった。しかし、今回は、槍ヶ岳がよく見える。池に映る槍ヶ岳も見られた。
下山する登山道からは、朝日が当たる焼岳や乗鞍岳も見られた。4日間好天に恵まれた、たっぷりと日焼けしたメンバーは、ぐんぐん下っていく。秩父沢を越え、さらに下ると林道に出る。林道を20分ほど行くと、わさび平小屋に着く。水を張った木のケースにたくさん浮かんでいるトマトが美しい。わさびも栽培されていた。
林道では、クリヤノ頭方面や風穴の天然クーラーを楽しみながら下る。新穂高温泉直前の道路では、動物が横切った。帰って図鑑で調べてみたら、アナグマだった。野生のアナグマを見たのは初めてだ。
4日間とも好天に恵まれて、北アルプスの良縁歩きを満喫できたのではないでしょうか? 温泉で汗を流し、松本行きのバスに乗り込んだ。
記:網干
《参加者の感想》
北アルプスの縦走に初参加しました。折立から太郎小屋に到着すると、清美な薬師岳と北アルプスの山々を見渡すことができ、私にとっては感動的でした。遠くに目指す山があり、踏破できるか少々不安がありましたが、いざ歩くとその不安は一掃されました。
途中の花々や見る角度で山の景色が変わり、終始楽しみながら山行できました。
特に印象的なのは、黒部五郎岳のカール渓谷、斜面の花畑や清らかな沢の音には心が癒されました。また、その夜は満天の星空も見ることができました。次に、双六岳では展望が良く、雄大な鷲羽岳や槍ヶ岳、穂高の山並みを間近に見ることができました。
最終日の下山は気が付くと、顔が真っ黒で口まで日焼けしていました。この4日間、晴天に恵まれ、北アルプスの山旅を一緒に堪能することができ、有り難うございました。
記:H.Kさん
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